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車椅子より絹の座布団で移動(2)

2020年2月7日「金曜日」更新の日記

2020-02-07の日記のIMAGE
下半身は動かなくても腕や胸の筋肉を鍛えることができるし、若いだけに覚えが早く、危険を察知してすばやく反応できるためである。ところがお年寄りの場合は、足腰だけでなく上半身の筋肉まで衰えていることが多い。そのため思うように車椅子を操ることができず、反射神経も鈍っている。自力で車椅子を操縦することには大きな危険がともなうのである。したがって、車椅子での生活を前提としたバリァフリー住宅も、非現実的で中途半端なものといわざるを得ない。私には、バリァフリーについて考えるたびに、思い出す光景がある。八○歳を過ぎても息子からの同居の誘いに応じず、住み慣れた自分の家で一人きりで気丈に生き抜いた、私の祖母の姿である。彼女は最後まで寝たきりになどならなかった。さすがに最後は足腰が弱り、歩くことができなくなったが、身の回りのことはほとんど自分でこなしていた。トイレに行くにも風呂に入るにも他人の手を借りることはなかった。もちろん車椅子になど乗ったこともない。それでは、いったいどうやって彼女が家のなかを動き回っていたのかというと、畳の上を滑りのよい絹の座布団の上に正座し、柱にくくりつけたひもをたぐりながら移動したのである。ひものないところでは腕でいざるようにして動いていた。悲惨な姿だと感じる方もいるかもしれない。しかし私はそうは思わない。祖母は自分なりに自由に動き回り、生活し、生きたかったのだ。そうした強い意思と知恵によって考え出した、いちばん便利で現実的な移動手段が、ひもと絹の座布団だったのである。

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