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神様の転居

2018年3月10日「土曜日」更新の日記

2018-03-10の日記のIMAGE
 うっそうとした深い木立ちの中に真新しいヒノキの社殿。伊勢神宮は20年に一度、ご神体が新殿に引越をします。別宮や鳥居、板垣など、全部で90もの建造物が造り替えられます。1993年の遷宮では10年あまりの準備期間と327億円もの経費を要したと報道されています。  社殿はヒノキを用いた古式ゆかしい「唯一神明造」。間口11.2メートル、棟の高さ10.3メートルの簡素な高床式の建物で、基本的には弥生時代の稲倉の構造を受け継いでいます。この遷宮は7世紀後半の天武天皇の時代から今に至るまで、戦国時代の中断はありましたが、1300年にわたって繰り返されてきました。今回でなんと61回目だそうです。  定期的な造り替えは、神が常に若々しい「常若」を保ち「弥栄」を目指すためとされていますが、なぜ20年に1度なのかは定かではありません。素木のヒノキが神殿としてのすがすがしさを保つ限度だとか、古代の暦法に基づく原点回帰の思想によるものとか、諸説あります。思うに、20年サイクルだからこそ、今日まで引き継がれたのかもしれません。今でこそ人生80年ですが、ひと昔前までは50年でした。社殿を造る高度な木工技術や遷宮に係わる諸儀式を次の世代に確実に引き継ぐためには、10年ではムダが多く30年では長すぎたのではないでしょうか。つまり一度は習い、一度は自分で建て、一度は教えるというサイクルです。いずれにしろ、20年ごとに1300百年も建て替えが継続されている事実は珍らしいことです。  現代の日本人には大変なことに思えるこの伝統行事も、「木の国」日本に住む古代の人々にとっては、案外当たり前のことだったかもしれません。それというのも、彼らは森の木を切っては植え、植え継いで今日まで森を維持してきたのです。祖父が植えて育ててくれた木を使い、孫のために苗木を植える。そこには自然の再生カヘの深い信頼があり、人間もその一員となって、自然のサイクルに参加しようとする強い意志が感じられます。そのような生き方をしてきた日本人にとって、20年ごとの遷宮はごく自然な行為だったのです。  伊勢神宮に限らず、神社は深い木立ちの中にあります。いわゆる鎮守の森です。都市化の中にあってもこの森だけは守られ、四季折々のうつろいの中で私たちの眼を楽しませてくれています。 深い木立ちがあってこそ、神社は信仰の対象となりうるのでしょう。  環境問題に関心が深い今日、「ヒノキ1万2000本も使う遷宮は資源のムダ使いではないか」との疑問の声も聞かれます。たしかに貴重なヒノキを使った建造物が、たった20年で建て替えられる事実だけに注目すればムダに見えます。しかし、実は古材は捨てられるわけではありません。姿を替えて何度もリサイクルされるのです。たとえば棟持ち柱は、次に宇治橋の鳥居に20年間使われ、さらに次の20年間は桑名と関の参宮道の鳥居に使われます。もちろん、他の材料も同じようにリサイクルされています。そこには木を定期的に切って使い、新たな苗木を植え継いできた、モノを大切に扱い自然とともに生きる日本人の心が脈々と受け継がれています。遷宮は資源のムダ使いというよりも、日本のリサイクル運動の原点とみるべきだと思うのです。

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