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参道の文化史

2018年3月8日「木曜日」更新の日記

2018-03-08の日記のIMAGE
 ヨーロッパではミラノの大寺院もケルンの大聖堂も、壮大な人工美ではあるけれども、樹木との取り合わせは考えられていません。山上に建つギリシヤのパルテノンでさえも、大理石と幾何学で造られた殿堂で、生物系の素材とはまったく無縁の存在です。  一方日本では、伊勢神宮も日光廟も、神の宮居は樹木あってこその神域で、緑の参道を通って神様に近づくように造られています。参道の形はさまざまですが、出羽三山の羽黒山はその代表的なものの一つでしょう。  頂上にある三社合祭殿にたどり着くまでには、2千数百段に及ぶ長い急峻な石段を登らなくてはなりません。その両側には樹齢数百年を越えるスギの大木が天を覆って立ち並び、昼なお暗く、頭上の梢の間からわずかに日光が漏れてきます。参道を通る間に、身も心も清められて神々しい気持ちになります。  この参道を登っているうちに、私はこれはどこかで見たことのある光景だと思いました。そしてゴシックの大寺院の内部を思い出して、ああこれだなと納得できたのです。ゴシックの寺院の中に入ると、両側には太い石の柱が立ち並び、天井はアーチ形の凹みが連なってほの暗く、頭上のステンドグラスの窓を通して薄い光が漏れてきます。なんとも言えない厳粛な気持ちになりますが、それはスギの並木の細くて長い参道の空間とそっくりです。  人間が神に近づいていく通路をつくる時、一方は生きた木でその空間を構成し、一方は石の柱でそれをつくり出しています。造形的な発想ではどちらも同じ考え方から出発しているのですが、使う素材の違いによって、日本は木の文化を育て、ヨーロッパは石の文化を築き上げてきたのです。  材料の違いと言えば、もっと身近なところに食事の例があります。ヨーロッパでは金属のナイフとフォークで料理を食べますが、中国人は象牙の箸を使います。日本人は白木の割り箸のほうがうまいと思う。  旅行して駅で弁当を買うと、発泡スチロールの薄板の上にスギの柾目が印刷してあります。あんなふうにして飯を食っているのは日本人だけです。金と象牙と木、そうした違いを生んだものこそが本当の文化なのでしょう。やはり日本は木の国であり、緑の国なのだと、食事のたびにしみじみ思うことです。

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