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絵絹とカンバス

2018年3月5日「月曜日」更新の日記

2018-03-05の日記のIMAGE
 ヨーロッパにおける木材の遺構は、日本のそれに比べてはるかに少ない。しかもそれらは金属や石材とともに用いられることが多かったので、おのずから硬木によって加工されたものに限られています。その理由は、金属的な感覚を表すには硬木のほうが適していたからです。  試みにヒノキで作られたルネッサンスの家具を想像してみてください。重さも堅さもない洋風の家具は、ちょうど岩絵具で絵絹に描いたゴッホの絵のような滑稽なものになってしまうでしょう。あの彫りの深いゴシック調の忍冬唐草の彫刻は、硬木によらなければ生まれてこない美しさなのです。  ヨーロッパの木工における硬木が洋画のカンバスであるとすれば、わが国の木工におけるヒノキやスギは、日本画の紙であり絵絹にあたります。洋画には油絵のもつ独特の美しさがあるように、日本画には紙や絵絹によってのみ表すことのできる枯淡な妙味と高い美しさがあります。もし紙と絵絹がなかったら、日本画の美しさが存在しえなかったように、日本的造形の美しさもヒノキやスギのような優れた針葉樹がなかったら、とうてい生まれてこなかったにちがいありません。実に、日本の彫刻、工芸、建築の高い美術的境地は、これらの優秀な木材に負うものである、と言っても決して過言ではないでしょう。  しばしば日本の建築は線(柱と梁)によって構成され、ヨーロッパの建築は面(壁)によって構成されると言われますが、その線の構成というのは木材の細長い形態と、繊維方向のみしか使えない加工上の制約が生んだ必然の結果なのです。そのこともあわせて考えてみる必要があると、私は思います。

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