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木の評価法

2018年3月1日「木曜日」更新の日記

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 木を見てしみじみ感じることは、木はどんな用途にもそのまま使える便利な材料ではあるが、格別に優れた特性を持たない平凡な素材だということです。  構造材としては軽くて強いけれども、強度的には鉄鋼材料にはるかに劣るし、熱や電気の絶縁材料としての特徴は持っているが、プラスチック類はそれよりも優秀です。切削加工はしやすいが、塑性加工という面からみれば、曲木以外に特に芸がありません。酸やアルカリに対しては内部は安全であるけれども、菌や虫には意外に弱いのです。  まとめてみると、燃える、腐る、狂うという3つの欠点以外は一応の及第点をつけられるが、それはせいぜい「良」の評点であって「優」にはなりません。総合的にみた時、どうやら「優の下」くらいというのが木の評価です。つまり一つずつの性能だけを取りあげると他の材料のほうが良いが、長く使ってみると、やはり木には捨てがたい良さがあるというのが、長い体験から得られる実感だと思います。  鉄やプラスチックは、良い評点もあれば悪い評点もあるというように評価が大きく振れますが、木はそれらと著しく違う対照的な性格を持っています。そのゆえにこそ広く使われ、長く親しまれてきたのです。  木は物理的試験のどの性能を軸にとっても、最優秀にはならないが、さりとて最下位にもなりません。平均して3位か5位くらいの中間の成績です。つまりタテ割の、偏差値的な評価をするかぎり、木の良さは浮かび上がってこないのです。だがここで見方を変えて、各軸の成績は中位でも、ヨコ方向に見てバランスのとれたものほど良いという、ヨコ割式の評価法をとると、木は最も優れた材料の一つということになります。  木綿も絅も木と同様です。物理的・化学的な試験をしてタテ割式の評価で見ると、最優秀にはなりません。だから、ナイロンがこれだけ発達したにもかかわらず、肌着にはやっぱり木綿が良いというリバイバルの起こった理由を説明することはできないのです。  しかし「風合い」までも含めた、繊維としての総合性で判断すると、木綿がいちばん優れた糸であることは、専門家の誰もが肌で知っていることなのです。なべて生物系の材料というのは、そういうヨコ割式の特性を持っているのが宿命なように思えるのです。  以上に述べたことは、人間の評価法の難しさに共通するものがありそうです。数学とか語学とかいった2、3のタテ割の試験科目の点数だけで優劣を判断することは危険だという意味です。 考えてみると、天はニ物を与えません。頭の良い人というのは、とかく癖があったり、心が冷たかったりするものです。「名馬は癖馬」という言葉もあります。だが、バランスのとれた人は、人間味豊かで親しみやすい。タテ割評価の秀才もたしかに貴重だが、バランスのとれたヨコ割評価の鈍才もまた、社会の構成上欠くことのできない人たちなのです。思うに生物はきわめて複雑な構造をもつものだから、タテ割だけで評価することには無理があるのでしょう。  木の良さは、食べ物で言うなら「平凡だが飽きのこない米の味」、人間で言うなら「平均的人間像」です。目立った特色のないところに、その良さがあると言ってよいでしょう。だから歴史のなかでいちばん長く使われてきたのだと思います。  21世紀は機械文明の時代から生物文明に移る時代だと言われますが、その世紀を背負って立つ若い人たちに、木のような目立たない良さを持つ鈍才の価値を見落としてほしくありません。近ごろコンピューターよりも人ピューターのほうが頼りになるよとか、エンジニアよりも勘ジニアのほうが役に立つよ、という意見をはく人もいますが、味わい深い言葉だと思います。

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