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バラバラと精密

2018年2月27日「火曜日」更新の日記

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 木と金の違いを知る話を書きましょう。奈良薬師寺の東塔は白鳳時代を代表する遺構で、アメリカの美術史家フェノロサが「凍れる音楽」と形容したことからもわかるように、わが国の最も美しい塔として有名です。この塔が1200年の風雪に耐え、地震にも倒れなかったと聞くと、白鳳の工人たちはさぞかし精密な細工をしたに違いないと感心します。  ところが薬師寺の再建にあたった西岡常一棟梁の話によると、柱も梁も垂木も同じ寸法のものは一つとしてないそうです。たとえば屋根を支える斗枡(柱の上の組物)のうち斗について言えば、平均寸法は25センチなのに、大きいものと小さいものとでは幅が3センチも違うというのです。ということは、バラバラという表現が当たっています。  ところで薬師寺は、西岡棟梁らによって昭和52年に金堂の再建が完成し、56年には西塔が建ちました。高田管長は日本のヒノキで建てたかったけれども、用材が集まらないのでタイワンヒノキを使いました。  その時の話ですが、現在では製材機械が進歩しましたから、挽き出されてくる建築用部材の寸法はいずれも正確で寸分の違いもありません。それに手作りの味を加えてヤリカンナで仕上げのですが、出来上がった金堂を見る と、どうも柔らかさに欠けていて、木造建築の味わいが足りません。東塔の姿が筆で書いた墨絵の線であるとすれば、金堂は機械製図の烏口の線といった違いがあります。正確ではあるけれども、どこか冷たくて、人間くささに欠けていることに気がついたのです。  そこで西塔を造る時は、製材機械で挽き出された柱の部材を、16人の大工に1本ずつ与え、各自勝手に削らせて柱を作り、それを組み合わせるようにしました。すると、美しい西塔が出来上がったというのです。  これは大変に味わいの深い話で、教育のやり方の違いに似ています。金堂の造り方が偏差値教育だとすれば、西塔は個性教育だと言えるでしょう。  棟梁の話でもう一つ付け加えたいのは、木を殺す凶器は鉄だということです。  建物には最小限の釘が使われていますが、その古い釘は鍛え打ち、鍛え打ちした飛鳥の釘だから、その中には薄い層が何十枚となく重なり合っている。だからこそ1300年経った今も、風雪に耐えて立派に釘の役目を果たしているのです。  慶長の大修理で使ったカスガイは、400年たった今日ではボロボロになった錆の塊りです。鉄は錆びて周りの木を駄目にするから、鉄を使った建物の寿命は木だけのものに比べてはるかに短くなる。ヒノキだけなら千年以上ももつ建物を、鉄と無理心中させるのはいかにも惜しい気がする。それが西岡棟梁の信念なのです。  棟梁が言いたいのは、良い建物を造るには理屈よりも愛情だということです。飛鳥の工人たちの木を生かして使った愛情が、よく千年の風雪に耐えてきた。それをあらためて見直せと言っているのです。宮大工の家に伝わる口伝に次のようなものがあります。味わい深い言葉だと思います。

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